家族の絆
 そういえば、祐一は気になる情景を思い出していた。会議2日目の昼食の時だった。一つの丸テーブルに10人ぐらいが、思い思いに席について、いわゆるビュッフェ形式だった。突然、隣のテーブルから主催者側のメンバーの一人が立ち上がり話を始めた。『おめでとう!』とか、『良かった!』といったコールとともに拍手も起こった。
「世の中、不景気風が吹いていますが、実は最近いいことがあって、少し懐が暖かくなっています。そこで何かのご縁だと思いますが、このテーブルでたまたまご一緒させていただいた方々に今日の夕食をご馳走しようと思います」
 再び、拍手が沸き起こって、彼は席についたが、隣のテーブルでは、相変わらず、彼を中心に話が弾んでいた。祐一の座ったテーブルでは、隣のテーブルでなくて残念だったという者も何人かいた。彼と同僚の主催者側のメンバーもいて、『彼は何10億円高のお金を手に入れたようだ。それも、アフリカの石油の売買とかのようだが、それ以上のことは誰も知らない』と話してくれた。その話で、一区切りついて、午前中の続きのような話になった。それは、将来のデジタルTV放送の世界統一についての意見で、欧州勢としては、今までのPAL方式を基に、日米路線とは一線を画した方がいいという意見をいい出すものもいた。
 そういえば、隣のテーブルで脚光を浴びていた先程の彼であるが、国際標準化委員会にしては珍しく、唯一の黒人だった。黒人だから、どうのということはないが、一般的に国際的な会議ではあまり黒人を見かけたことがなかった。国籍はイギリスであるが、出身は南アフリカということだった。そのことも、多少不思議な気持ちで祐一の意識に残っていた。
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