家族の絆
 6月に入っても不安定な天候が続いていた。6月に開かれる株主総会が終わるとやっと前年度の行事がすべて終わることになるが、大日本電気では7月を目処に管理職に対する新しい年度の給与体系等を決定する時期である。
 デジタル放送研究会の成果を評価対象としないと岩城研究所長は明言したことがあった。ともかく、情報通信メディア研究所としての成果は悲惨なものだった。すなわち、光通信用の高速送受信装置の開発遅延に関して他部門のせいだといっても通用するはずはなく、進捗は一年近くの遅れでありどうすることも出来ないでいた。そんなときに管理職全員に対して個別の話し合いが設定された。その中で岩城研究所長から降格になる可能性があると申し渡された。
 今まで、挫折を知らなかった祐一にとってこれほどのショックはなかった。祐一たちの開発は確かに遅れているのは事実だが、基幹部品である他部門のレーザーに依存している。その他部門の遅れに因るものでありなす術(すべ)がない。自ら犯した過ちのせいであれば、納得できた。しかし、頭ではわかっていても決して納得いくようなものではなかった。
 一方で、デジタル放送研究会での成果は、大日本電気を離れて全国にいや全世界的に素晴らしい成果がでていることであり、それが全く考慮されない点にもますます募る焦燥感には耐えられないものがあった。
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