家族の絆
『一般に考えると相当な額であるが、簡単に送金したりできるのだろうか?』
『それよりも、やはり〔まゆつば〕ものである』
『そんなうまい話が転がっているわけはないではないか』
『しかし、1億円でもあれば、今のローンを支払い続けている生活も多少はゆとりがでるかもしれない』
『いや、4億円あれば、この仕事からというか、うんざりしている上司から開放されるかもしれない』
『今の上司である岩城の顔を見なくてもすむならそれに越したことはないし、自分の仕事にけちをつけられようとも好きなようにやることができる』
『岩城の顔をびくびくしながら眺めているのは、査定が悪くならないようにしたいからに他ならない』
『しかし、先日の話で、降格をいい渡された事実は現実である』
『そう、現実に給料が下がろうが、4億円あれば、好きなことができる』
『この大日本電気を辞たってかまやしない』
『もっと、自分自身のために、家族のために何でもできるではないか!』
『いや、一方こちらのリスクはなにが考えられるだろうか?』
『ひょっとして口座を教えてしまうと、その口座残高が、引き出されてしまう?』
 そんなことを反芻していたが、1億円の百分の一にも満たない額を気にしてどうなるのかといった現実の世界に引き戻されてしまう。その夜は、早く家に帰ったにもかかわらず、折角の時間がジョーからのメールに費やされてしまった。
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