世界のまんなかで笑うキミへ
「中野。あんたは、描ける子だからね。技術は他の学校に負けてない。あんたが本気出せば、全国にいける作品だってできると私は思ってる」
「……買い被りすぎです」
「いーや、本当のことだよ。だから迷ってることがあるなら、いつでも相談しに来なさいね。今年は中野ひとりだけだし、そのくらいの余裕は私にだってあるんだから」
先生の言葉はありがたかった。
彼女の美術の腕は確かだ。親身に相談に乗ってくれるだろう。
だけどまだ私は、『迷う』段階にすらいないんだ。色んな分かれ道の前で、ただ呆然と立ち尽くしているだけ。
「………ありがとうございます」
そう一言、返事をするので精一杯だった。
考えなきゃいけない。
もう、そろそろ。
『人に見てもらうための絵』を、描くことを。
*
「面白い人だなー、あの先生」
部活が終わって、学校から駅までの帰り道。
最近は颯が美術室にくると、そのまま一緒に帰るという流れになっている。
颯は私の隣で、小さく笑う。湯浅先生が気に入ったみたいだ。