世界のまんなかで笑うキミへ



颯は、透明だ。



どんな色とでも馴染む。溶け合って、一緒になれる。水のように。


だけどそれでいて、どこか他の色と一線を引いているように見えた。


馴染むけれど、彼はどの色と一緒にしても存在感が消えることはない。


どんな景色の中でも彼は映える。そういう意味でも、私は彼を絵の中心に据えたかった。


だからこういうとき、どんな色で彼を描けばいいのかわからない。


どの色を使えば、正しく彼を表現できるのだろう。



「………じゃあ、赤」

「え?」


颯が突然言った。なんのことかわからなくて、見つめ返す。


颯はまっすぐ私を見つめて、「赤使って、塗って」と言った。


「赤……?え、なんで?」

「なんとなく。理央の携帯が赤だったから」

「あ、ああ……」


言われた通り、赤の絵の具をパレットに出す。一緒に橙と黄色も出した。


「じゃ、じゃあ塗ります」

「はい」


颯に絵に関して指定されたのは初めてで、なぜか途端に緊張した。



< 184 / 282 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop