世界のまんなかで笑うキミへ
ずっと伝えたかったこと
颯と市民公園に行った二日後の放課後、美術室へ行くと、既に古田先輩が来ていた。
今日は颯に来ないと連絡を受けているから、先輩とふたりきりだ。
「こんにちは」
「こんにちは、中野さん」
先輩は優しく微笑んで、こちらへ振り返った。
彼が以前から描いている油絵は、完成に近づいているのか、細部まで描きこまれている部分が見えた。
あの絵が、この部での彼の最後の作品になるのだろうか。
寂しい、と思う。先輩が引退するまで、あと一ヶ月だ。
彼と私は、長い間ふたりきりだった。
お互いたくさんしゃべる性格ではなかったから、美術室はいつも静かだったけれど。
ここにはずっと、落ち着いていて心地よい空気が流れていた。
「古田先輩」
荷物を置いて、壁に貼られている彼の作品を眺めながら、声をかけた。
「なに?」
穏やかな声が返ってくる。
いつも通りだ。この人はいつだって変わらない。
どれだけ教室で嫌なことがあっても、ここに来れば私はいつも安心できた。