世界のまんなかで笑うキミへ



「…………あ……?」



中に入っていたのは、大量の本と、スケッチブックだった。


積まれた本の、いちばん上にあった赤いスケッチブック。


この家で、絵を描く人間は私しかいない。だからもちろん、スケッチブックなんて使うのは私しかいない。



だけどこんなスケッチブック、私は知らない。



「………………」



少し埃のついたそれを、そっと持ち上げる。


震える手で、表紙を開いた。


なんだかよくわからない不安と高揚で、怯えにも似た恐怖が心を占めていた。


白い紙が顔を出す。クレヨンらしき匂いが鼻先をかすめたとき、私は目を見開いた。



「…………海」



一ページ目には、海が描かれていた。


拙い筆致で描かれたそれは、青と白と緑で構成されていて、混色だとかそんなもの、まるで無視されていたけれど。


構図やタッチの癖で、これは私が描いたものだとはっきりわかった。


それにこの海岸、緑の位置。



あの海だ。



颯と行った、あの場所。


だけどいつ描かれたものなのか、何もわからない。覚えていない。思い出せない。




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