世界のまんなかで笑うキミへ
▼第六章
夏の妖精
あれからどうやって家に帰ったのか、もう覚えていない。
気づいたら家のベッドで寝ていて、朝を迎えていた。
「……………『ソウ』」
部屋の窓から射し込む日の光に目を細めながら、言い慣れた音を口にする。
ソウ、ソウ、颯。
よかった。ちゃんと覚えている。
消えてない。私の中から颯は、まだ消えていない。
それだけで、涙が出そうなほど嬉しかった。
もしかしたら、昨日の夜の出来事は悪い夢だったのかもしれない。
学校へ行けば、また明るい笑顔でみんなの中心にいる彼の姿を見ることができるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に登校した。
学校は昨日と何一つ変わっていない。
ああやっぱり悪い夢だったんだと思いながら、隣のクラスの教室を見る。
だけどそこに、颯の姿はなかった。
一瞬だけ冷や汗が背筋を流れる。いや、まだ来ていないだけだと思いながら教室へ戻ろうとしたけど、颯の席に違う人間が座っているのを見た瞬間、嫌な予感がした。
「………………」
呼吸が浅くなる。
まさか。いや、そんなはずはない。
自分に言い聞かせながら、近くでわいわい盛り上がって喋っていた男子たちの方へ向かった。