世界のまんなかで笑うキミへ
「いいよ。縮こまってどうしたの」
「いや……いきなり入ったら、絵描いてるのの邪魔になるかなって」
颯にしては殊勝な気遣いだ。私は先輩の方をちらりと見た。
「………先輩。さっき私が言ってた人が来ました」
先輩は手を止めて振り返る。美術室へ足を踏み入れた颯を見て、彼はいつも通りに微笑んだ。
「やあ、こんにちは。三年の古田です」
「あ、こんちは……二年の橋倉颯です」
「橋倉くん。僕は見ての通り、絵を描いてるからあまりかまえないけど、好きなだけゆっくりしていってね」
「あ、ありがとうございます」
颯は緊張した面持ちで頭を下げた。さすがの颯といえど、先輩の前ではちゃんと礼儀正しくなるらしかった。
先輩がまた絵に向き直ると、颯は私の隣の席に腰を下ろした。
「……………颯」
呼ぶと、颯は何気ない様子でこっちを向く。
私は口を開いて、けれど声が出なかった。言いたいことはたくさんあったけど、言い出せなかった。