冷たい男
「僕には勿体ないお方です。将李に良いと思ったのですが、お断りしましょう」



「申し訳ありません」



「本当よ。本当は心に想ってる人が居るだけじゃないのかしら?」



さすが母親。

共に過ごした時間は少なくとも、鋭い勘が働いたようだ。



「えぇ、それはもちろん。僕も人の子ですから」



「あーあ……;;」



小声で漏らした私の呆れた声に、勢いで言い切った将李も顔を引き攣らせた。

将李の正面に座る母親は、口付けたワイングラスを外しながら、将李を一瞥。



「……何だか気分が悪いわ。貴方、お先に帰りましょう」



「あ、あぁ;;」



お怒りになったらしい母親は、グラスが割れるんじゃないかと心配になるほどの強さでテーブルへと置いて立ち上がる。

父親は食べかけの料理を名残惜しそうに見つめながら、手を振りながら母親に引っ張られながらレストランを出て行く。



「やってしまったな、将李」



「元はお兄さんが持って来たお見合い話が始まりですよ」



「確かにそうだが、もう少し大人の対応をする男だと思ってたよ」



「母親に我が儘も何も言えないなんて、寂しい話です」



「それが、僕たちが生まれた環境なんだ」



元も子もない事を言った統李に、将李は拗ねてそっぽを向いてしまった。

統李は「お母様の機嫌を直しに行くよ」と、伝票を手に立ち上がる。

私もその場で立ち上がり、「また」と頭を下げて見送る。

そして統李の姿が見えなくなったところで、ウェイターに灰皿を頼んだ。
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