冷たい男
「いらっしゃい!将李君なら奥の座敷だよ」



「どうも」



居酒屋に着くと、もう兄は来てたらしく、店長さんに言われた奥の座敷へと行く。

クロックを脱いで上がると、同じ格好をした将李が、ビールを片手に出迎えた。



「腹減ったから、適当に頼めよ」



「うん」



メニューを開きながら、呼び出しボタンを押す。

「すぐ伺いまーす」と、間延びした声が聞こえる。

静かな高級レストランより、落ち着く。



「はい。何にしましょう」



「梅酒のロックと、枝豆。ホッケと大根サラダと……出汁巻き玉子に、焼き鳥のモモと皮とつくねを2人前をタレで。後は軟骨の唐揚げに、あら煮を下さい」



「はい。少々お待ち下さい」



「お前いくつだ」



「貴方の一つ下ですね」



メニューを戻し、箸を取って先付けの胡麻豆腐に手を伸ばす。

梅酒から届き、ホッと一息吐きながら煙草を銜える。



「お前さ、そろそろ俺の彼女と会わねぇか?」



「何で?面倒くさい」



「そりゃねぇだろ。俺がお袋にどれだけ警戒してるかわかってんだろ?」



「だから私は、巻き込まれたくもないしで会わないの」



さすがに風岡の前でもしない銜え煙草をしながら、サラダなどを取り分ける。

煙が目に染みる中、ただでさえ嫌なお願いをされて顔を顰めて断る。



「お前が会わなきゃ、お袋が気に入るかもわかんねぇだろ」



「会わなくてもわかる」



「何が」



「どうせ、あの子なんじゃないの?」



「……“あの子”って?」



惚けたフリする将李を、私は真っ直ぐに見据えた。


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