冷たい男
換気扇の下で、風岡かの煙草を貰って吸ってると、≪わかった≫と返事が来る。



「ちょっと、お兄ちゃんと会って来る。食べたら流しに入れといてくれたら良いから」



「1時間か、2時間か」



「わからない。けど、戻って来るから……止めて」



何と言わなくても、風岡にはわかっただろう。

一瞬、目を見開いたのがわかった。

今まで、こんな事を言った事はない。

けど、他の人を抱いた直後に抱かれるなんて嫌だった。



「……これ」



「ありがとう……っ」



合鍵ではない。

けど、キーケースごと鍵を渡された。

私が勝手に持ち出すのはいつもの事。

しかし、初めての事で戸惑いながら受け取った。

「行って来ます」とマンションを出る。

財布とキーケースを手に、喫茶店へと走る。

中へと入り、上がった息を落ち着かせてると、将李はイライラした様子で現れた。



「何で家じゃねぇんだ」



「ちょっと出先で。それより、どうしたの?あんな電話、初めてでしょ」



ホットを注文しながら、私が自宅じゃなかった事も気に食わないのか、怒り顔のまま聞いて来た。



「あの女、俺の口座を凍結しやがった」



「……お母、さんの事?」



「何か勘付いたんだろ。頼香の入院費を支払う予定だったのに、金は下ろせない。カードで支払うわけにもいかない。情けないが、お前に借りるしかない」



「や、私は別に……」



私に借りるもなにも、母親が仕送りで振り込んで来たお金であり、私のお金ではないから何とも。
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