冷たい男
「でも、私の通帳のお金まで動いたら、怪しまれない?」



「知らねぇ!とりあえず余分に払って、俺はあの女と縁を切る。親父は俺に甘いからな。何とか言って、親父から金は貰う」



「……それなら、良いけど……」



もしかしたら、殺人を犯すんじゃないかと思ったけど、縁を切る位なら良いだろう。

母親と将李の縁が切れようと、私には関係ない。

母親とは母親との、将李とは将李との変わらない付き合い方をして行く。

病院に戻るらしい将李と別れ、私は風岡のマンションへと帰った。

スクールバックから通帳を取り出して残高を確認して、財布へと入れる。



「……あのさ」



「何だ」



「ちょっと、頼みがあるんだけど……」



再び出掛けようとした私の前を横切る風岡。

お風呂に入ってたらしく、ビールでも冷蔵庫から出すつもりだろう。



「20万、ある……?」



私は大金を引き落とした事がない。

母親は勘が良い。

クレジットカードを持たない私は、口座が凍結されては困る為、風岡に頑張って月10万の返済で借りようと思い付いた。



「何するつもりだ」



「兄に貸さないといけなくて……。無理だったら良いの。ちょっと、聞いてみただけ」



「……待ってろ」



「…………?」



風岡はそう言って、寝室へと入って行った。

引き出しを開ける音だけが聞こえるリビング。



「……良いの?」



「だから出したんだろ」



「……ごめんなさい……」



差し出された裸の20万を手に、私は頭を下げた。
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