冷たい男
「実家、裕福なんだろ。お前の事なら返すだろうし、別に良い」



私の実家の事は、理事長までしか知らない。

でも、裕福だとは知ってるらしい風岡は、特に気にした様子なく、ソファーに座ってビールを呑み出した。

近くのコンビニで、母親の知らない口座を使って将李へと送金。

いつかバイトをしてみようと作っただけで、使った事のないものが、こんな時に役に立つとは。

煙草を買って戻ると、再び風岡へと頭を下げる。



「飯食えよ。暇だ」



「うん……」



言葉はともかく、風岡なりの優しさが込められてるようで、胸がいつになく温かい。

食事をし、片付けてシャワーを浴びる。



「ちょ……っと……!」



脱衣所で身体を拭いてると、まさかの乱入。

いつもは遮光カーテンも閉められた真っ暗な部屋でしか行わないのに、こんなに明るい場所で求められたのは初めてだった。

背後から回された腕は、上と下とで同時に攻められ、首筋に風岡の舌が這う。

鏡に映る自分の赤い顔のせいで、恥ずかしさは増すばかり。

熱さはシャワーのせいで熱ってるだけ……。

そう思えば思う程、平常心は失われて行く。

鏡から目を背け、風岡に口付けを求めた。



「……ライカ……」



「――…っ!!」



やっぱり、この冷たい目に私には映らない。

近付いて来た風岡の顔を避け、風岡の腕を掴んで手の動きを止めさせた。



「私は、恋人じゃない人とはしない……っ……」



「だったらそれで良いと言った」



「確かにね……。けど、私は……、“ライカ”さんじゃない……っ!!」



私は風岡を突き飛ばし、急いで着替えた。
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