冷たい男
「“お兄ちゃん”……?」



「今度、荷物を取りに来る時、お金もちゃんと返しに来る……。こんな私に、好きとか言われたくなかったよね……?本当、ごめんなさい……」



私は風岡の返事を待たず、マンションを飛び出した。

…何で、こうなるのか。

どうして、こんな運命なの……?



『もしもし』



「お兄ちゃん……?」



『何だよ。今度はお前がヤケに浮かない声だな。泣いてるのか?』



「お金……振り込んだけど、返してくれない?」



『は?何で、急にそんな事……!』



「頼香ちゃんね、私が好きな人が好きなんだって……。私ね、嫌われちゃったよ……っ……」



『お前、今どこだ!』



今、どこかなんてわからない。

お兄ちゃんに電話をしたのも、繋けてから気付いたんだもん。



『侑李?侑李、今どこだっ!!』



「……眩しい……」



『侑李――…ッ!!』



--キキィー…ッ

--ドン…ッ

重量に逆らうように浮いた身体は、痛みよりもふわりと浮いた感じが心地良かった。



「……か……ざ……お……か……っ」



今なら、わかるような気がする。

好きな人が離れるって、こんなにも寂しくて辛い。

心が折れてしまう出来事だって――…。












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