冷たい男
悲しくて、辛い思いは一度で十分なのに、本当はまだ離れたくないと思ってる私は、頭がおかしいのだろうか。



「さぁ。それはお前次第だろ」



「……やっぱりね」



風岡の事だから、そう言うと思ってた。

嘘か実か簡単に見分けられる男ではないけど、そう突き放して言う時って、大概嘘ではない。

風岡は嘘を吐く時は、黙るか声のボリュームが煩くなるわけじゃないが、穏やかではない。



「本当は、優しいくせに」



「どうだかな」



風岡の頬を撫でると、近付いて来る顔。

いつもなら噛み付くように荒々しく重ねる唇。

だけど今日は、私の身体を気にしてか、ゆっくりと、お互いの気持ちを確かめ合うように口付けが交わされた。

いつもは煙草の苦味が包むのに、臭わないって事は、何時間も吸ってないのだろう。

それがおかしくて、クスッと笑う。



「香りに誘われないキスは初めて」



お陰で、身体がベッドから動かせない今、煙草を吸いたいという衝動はない。



「好き……」



「シンドイ」



私の声を無視して、腰を押さえながら上体を起こした風岡。

その背中をバシッと叩き、「お兄ちゃん!」と声を張ると、ちょっとだけドアを開いた将李。



「喉渇いた」



「お茶でも買って来る」



素直にパシられてくれた将李に感謝しつつ、退屈で風岡の背中をポンポンと叩き続ける。
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