春、さくら、君を想うナミダ。[完]
モモは、うれしそうに彼のほうへ駆け寄っていく。
「かわいーな、おまえ。名前は?」
モモの前にしゃがみこんだ彼は、モモの眉間のあたりを撫でていた。
よかった……彼も犬が好きみたい。
「モモっていうの」
「モモ~。よろしくな~」
モモは、初対面の彼にもすぐに懐いた。
こんなことは珍しかった。
モモも飼い主のあたしに似て、人見知りだと思っていた。
いままで初対面の人には吠えてばかりで全然懐かなかったのに。
彼に抱っこしてもらったモモは、まるでぬいぐるみのようにおとなしくなって、
なんだか微笑ましい。
「あの……待たせちゃったよね?ごめんね」
彼も制服姿のままで、学校から直接この場所に来たみたいだった。
「全然待ってないよ。座ろっか」
「うん」
地面におろしてもらったモモは、辺りに咲いていた花や草の匂いをクンクンと嗅ぎはじめる。
彼がベンチに座ったのを見て、あたしもちょこんと端に座った。