春、さくら、君を想うナミダ。[完]
「どっちがいい?」
そう言って彼は、鞄の後ろにあったビニール袋から
お茶とジュースのペットボトルを取り出して、あたしに見せた。
「あ、じゃあ……お茶」
「はい、どーぞ」
彼から、お茶のペットボトルを受け取る。
「いただきます」
あたしの分まで買っておいてくれるなんて、優しいな。
こういうとき、お金渡さなくていいのかな。
どうすればいいんだろう。
男の子にこんなことしてもらうのは初めてで、どうしていいかわからない。
そもそも、どうして今日あたしを誘ってくれたんだろう。
「俺さぁ」
「は、はい」
「ここで時々、本読んだり、音楽聴いてボーっとしてたりするんだけどさ」
「ここ……静かだもんね」
あたしは湖を見つめる。
急に黙り込んだ彼のほうに視線を向けると、
彼はニコニコしながらあたしを見ていた。
「え?なんかあたし、ヘンなこと……」
「いや、信じてくれたんだなーと思って」
そう言って、彼はうれしそうに笑った。
「俺って本とか読むタイプに見えないらしいんだよね」
「そうなの?」
「うん。だいたい人に本読んでたって言うとエロ本だろって言われるし」
「えっ……」
「みんな失礼すぎだろっ」
「ふふっ」
彼と話していると、自然と笑顔になれる。
まだ出逢ってから、そんなに時間も経っていないのに。
不思議……。