春、さくら、君を想うナミダ。[完]



桜のトンネルがある道から、少し草むらに入っていくと、



湖を眺めることのできるベンチがある。



誰もいない静かなこの場所。



この場所には、たくさんの思い出がある。



本当に大切で、

忘れたくない思い出ばかり……。



あたしがベンチに座ると、モモは草の上で気持ち良さそうにゴロゴロしはじめた。



膝の上に置いた手帳に視線をうつしたあたしは、ゆっくりとページをめくっていく。



この約1ヶ月の間、



あたしは、この手帳の中に君との思い出を綴っていた。



君と出逢った日から、一緒に過ごした時間のこと。



記憶のカケラをひとつひとつ集めながら。



この手帳の中に、ふたりの時間を詰め込んだ。



瞳にあふれていた涙が、静かに頬を伝っていく。



「……っ」



ページをめくる手が震えて、



手帳に挟まっていた1枚の写真が、地面にひらりと落ちた。
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