片道10分
日暮里
目の前の彼女は、ストレートな長い髪の毛を垂らしながらカリカリと真剣にノートに何か書き留めている。
時折、顔にかかるのが鬱陶しそうに顔をしかめながら耳にかける仕草がなんとも言えない。
シャーペンの持ち方がきれい。
きっと箸の持ち方も綺麗なんだろう。
今度ご飯を食べる時に見てみよう。
もちろん字もきれい。
今どきの女の子のように偏った不可思議な文字じゃなくて、教科書に載ってるような整った字だ。
すると、じっと見つめられる視線を感じたのか、呆れたような表情で顔を上げた。
「…なに」
凛と澄んだ声が響く。
あたしはその表情と声に、心臓をバクバク鳴らしながら彼女を見た。
「全然あたしにかまってくれないなーと思って」
「勉強してるから仕方がない」
「何勉強してるの」
彼女は呆れた顔をさらに深めてあたしを見た。
このやりとりはあたしと彼女が一緒にいればいつものことだ。
「大学生だから」
「大学は遊ぶところよ。4年後真面目に働くための遊び期間よ」
「……真面目に働いてない大人が目の前にいるけど?」
「なによー!ちゃんと働いてるじゃない!誰のおかげで大学入れたと思ってるの!」
「真面目に働いてる大人は勉強してる人に邪魔はしない」