遺書
 俺は会社へは向かわず、まったく別の方角へと車を走らせる。
自宅を出て数分が経過した頃、母から俺の携帯に着信があった。恐らく、母が会社へ行く前に私の自室を覗いたのだろう。これも計算済みだった。いつも母が会社へ行く前に、私の自室を覗いていることを知っていたのだ。なので、そろそろ母から電話がある頃だろうな、とは思っていた。しかし、俺は無視した。電話に出たところで言われることも分かっていたからだ。それに、今回の俺の決意は固かった。
しばらくして、母からメールが届く。が、これも読まなかった。もちろん、返信もしなかった。
会社や、親戚からも電話があったが、ことごとく無視し続けた。会社や、親戚から電話があることも計算の範囲内だった。親戚には母が連絡したのだろう。やりそうなことだ。
俺は車を奈良方面へと走らせていた。カーステレオからラジオ放送が流れているのが聞こえてくる。しかし、全然頭に入ってこなかった。
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