遺書
 途中、小さな農村に入った。何もないところだが、どこか懐かしさを感じるような、そんな場所だった。俺は思わず近くに車を停め、外を歩いた。空気がとても美味しく感じる。
―ここに、しようかな
心の中で小さく呟いた。昔から田舎が好きだった俺の最後にはもってこいな場所だった。丁度いい高さの橋もある。俺は橋の上まで歩いていくと、手すりを持ち、下を見た。橋の下にはゴツゴツした岩場があり、高さもそこそこあった。落ちたら確実に死ねる、と直感で感じた。
再び顔を上げ、景色を楽しむ。これが最後に見る景色だと思うと、なんともいえない気持ちになった。
「おい、あんた。そんなとこで何しとんのや」
不意に背後から声をかけられ、驚いて振り向くと、そこには80代くらいのおばあさんが立っていた。
―死のうとしてました
なんて言うことができず、俺は返答に困り、黙っていた。
「・・・茶でも、飲むか?」
「えっ?あっ、はい・・・」
俺は言われるがままに、おばあさんの後をついて行った。
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