君に恋する5秒前
第三章
【下級悪魔達】
もうすぐ陸上の地区予選が始まる。
そのため、先輩達はこれまでとは別人のように
気合いが入っている。何しろ最後のインターハイだ。
私も負けてちゃだめだと、必死について行く。
「お疲れ様でしたー!!」
やたらきつい練習を終えて、部室から出ると
そこには、松阪くんが立っていた。
「おっお疲れ!駅まで行くか?
俺も電車通だから、もし駅行くなら一緒に帰らないか?」
(これは、まさかまさか私と帰り道を共にしたいだと!?)
松阪くんからのお誘いである。
行かないかない訳がない。
ドキッなんてものじゃない!まさにビックウェーブ!
「うん、行こう!」
ルンルンで歩きだす。
駅までの道のりは約1.5キロ程。
しかし、この間にはとんでもない難所が待ち受けている。
偏差値底辺の超不良高校。別名下級悪魔達の巣である。
普段帰るときは、部活のせい8時過ぎで、
部活などめんどくさくてやらない悪魔達は、とっくに
家かゲームセンターに帰っている。
しかし今日のような土曜日の真っ昼間なら話は別だ。
やばそうな目に服装、髪型をした悪魔達はブラブラと
その辺を歩き回り至るところにたむろしている。
そして、ちょっとでも面白そうなやつ、
例)いかにもガリ勉。高校デビューしたての一年生など。
などに目をつけ弄ってくるのだ。
しかしこの弄りは全く可愛いげのないものだ。
「慧さん、最近調子良さそうだな…」
「そうかな?松坂くんのフォームもいい感じで仕上がってきたと思うんだけど…」
「あっありがとう。慧さんに誉められるのは嬉しいよ。
いつもすっげー綺麗な走り方してるから…」
「えっ…いやぁありがとう…」
(なんてことを言ってくれるんだ!そんなに顔を赤らめて
慧さんに誉められるのは嬉しいなんて言われたら、可愛いすぎて飛び付いてしまうだろうがー!)
心のなかで私はフルスロットルだった。
かなりいい雰囲気のなか、それをぶち壊された時の
気分は果てしなく悪くなるだろう。
「ヒュー!ここにゲイがいるぜー!道端でイチャつくんじゃねーよ!気持ちわりぃ!」
!?
ゲイなんてどこにいる?
もしいたのなら私がとっくに発見している。
「…」
まさか私達のことか!?
確かに私は165センチと平均よりも背が高く、
長距離選手ということで、体格も中性的だ。
さらに髪型もショートカットと、間違えられなくもない。
だが!!!スカート履いてて間違えるのだろうか?
(あっ今私は部活のジャージを着ている…そして松坂くんも
同じジャージを着ている…)
16歳にもなって男子と勘違いされる私って…
心のなかであまりのショックに鐘が鳴った瞬間。
「行こう。」
ぎゅっ
松坂くんが私の手を少々乱暴にとると、さっさと
立ち去ろうと試みた。
(ひぇぇー手が!手が繋がれている!これは夢なのか!?)
私の脳内はだいぶ壊れかけていた。
ありがとう悪魔共!と本気で思った程だ。
だが、こんな奴らは、感謝できる存在ではなかった。
「おい!気持ち悪いゲイども、何勝手に立ち去ろうと
してんだよ、待てや。」
恰幅のいいいかにも不良という感じの、剃り込みが
私達の前に立ち塞がった。
「今揉め事を起こす訳にはいかないんだ、
お願いだから俺たちの前から消えてくれ。」
松坂くんは、本当にめんどくさそうに且つ丁寧に不良
からのお誘いを断った。
「あぁ?消えろだと?なめてんのか?
そっちの女々しいの!なんか言えよ!」
なんという事だろう、私にまで突っかかってくるとは、
どうしよう…と考え始めたその瞬間。
ブオッ!!
まさかの拳が飛んできたのだ。
「えっ」
もう終わりだ、この恰幅の良い剃り込みの拳が
私の頬にめり込めば、私は確実に死ぬだろう。