あ、あ、あ愛してる
「愛美、有栖川の練習方法は独特なんだ。面倒な基礎練習より、実践で難曲を弾く。楽しみながら練習がモットーらしい」

仁科副部長は大袈裟に手を動かす。

「彼はあの細い指でベートーベンの熱情が得意みたい」

「熱情……あんな指が攣りそうな激しい曲がですか!?」

愛美が指を見つめ痛そうな顔をする。

「そう、熱情を倍速で弾いたり、木枯らしを倍速で弾いたり……平気でやる」

愛美は口を金魚みたいにパクパクさせ、絶句してしまった。

「彼はとにかく型破り。頭の中がどうなっているのか観てみたい」

仁科副部長はその後も「スゴい」を連発した。

あたしは和音くんが優等生というだけでなく、とんでもない天才なんだと思った。

和音くんが何だか遠い人のように感じた。

昼休み。

あたしと愛美が音楽室に入ると和音くんがピアノを弾いていた。
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