あ、あ、あ愛してる
和音くんは入ってきたメンバーの中に部長がいないのを確認し、落胆したようにため息をついた。


「ど――こかからででもお、おおOKだ」

一音一音、一言一言を声に出そうとするたび、拳を握りしめ股関節を叩く。

うまく出て来ない言葉を絞り出し、一所懸命話す様子に胸がつまる。

早く手話を覚えて使いこなせるようになりたい、手話の本だけでは追いつかない、あたしは心底感じた。

歌う時は喋れないことなど微塵も感じさせないのにと思うと、胸が痛かった。

パートごとに課題曲と自由曲を歌い終えたあたし達は、和音くんの評価をドキドキしながら待った。


「はは始めたばば――かりだだから……こ、こんなもものだだろ……ほほ放課後はさ、さ三部あ合わせて……れ――ん習な」

和音くんは何度も息継ぎをし、辛そうな顔をする。
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