あ、あ、あ愛してる
きちんと整理されたリュックの中には、薬袋や携帯用の酸素ボンベと一緒に、筒状になった上着が入っていた。

リュックから取り出しサッと広げ、和音くんに掛ける。

和音くんは「ありがとう」の手話をして、辛そうに息を吐いた。

「さささっき、げ解ねね熱剤をののの飲んだから」

掠れた弱々しい声で言う。

「うん、わかった……」

こんなに辛そうなのにと思うと胸が痛い。

和音くんの背中を優しく擦る。

「愛美、伴奏――」

和音くんの手がギュッと強く、あたしの手を握りしめた。

「……だだだ大丈夫だだから」

嗚咽がこみ上げ、涙が滲む。

――そんなに頑張らなくていいんだよ

言ってあげたいのに胸がつまって言葉にならない。

ただ、上着の上から、ゆっくり背中を擦る。

和音くんの体温と和音くんの体重を感じて、こらえていた涙が頬を伝った。

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