あ、あ、あ愛してる
午前の部が順々に進んでいく。

「か花音、あああありがとう」

出番の3つ前、和音くんは体を起こし、上着を畳んでリュックに入れた。

あたしの手にそっと触れ、ポンポンと軽く叩いて「大丈夫」をアピールする。

肩で息をつく和音くんの喉から喘鳴が聞こえる。

和音くんはリュックからペットボトルを取り出し、中味は飲まずに口を湿らせる。

「Alice?」

――和音くんは何かを隠している

胸騒ぎがした。

3つ前の学校の合唱が終わると、あたしたちは準備のため席を立ち、ロビーへ出た。

和音くんは平然としていたけれど、顔色が優れなかった。

ロビーから舞台の裏口に回り、整列し出番を待つ。

和音くんは舞台裏口の扉の下、数段のコンクリート階段に腰を下ろした。

「大丈夫?」

声をかけ、額に手を当てる。

解熱剤は飲んだと言っていたけれど、和音くんの額は火照っていた。
< 113 / 209 >

この作品をシェア

pagetop