あ、あ、あ愛してる
膝の上にうつ伏せた和音くんの肩が忙しく上下している。

整列したあたしたちには見向きもせずに、長身の男性が真っ直ぐ和音くんに駆け寄り、声を掛けた。

和音くんは男性を見上げ、驚いたような顔をしたけれど、直ぐに穏やかな表情になった。

「和音、俺も奏汰もマネジャーも客席にいるからな」

和音くんは頷いて、手話で何かを伝えた。

「わかった」

「……た、たた拓斗」

和音くんは掠れた声を絞り出し男性を呼び、胸にしがみついた。

男性が髪を下ろし、いつも頭に巻いているバンダナも、身に着けている銀色の腕輪や指輪を着けていないから、拓斗だとわからなかった。

拓斗は和音くんの体をギュッと抱きしめた。

5分くらいずっと、抱きしめたいたと思う。

仁科副部長がその様子を見ながら、あたしに話しかけた。

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