あ、あ、あ愛してる
ついさっきまで、花音の膝を借りて伸びていた俺が言えた義理ではないが、最善を尽くし歌ってほしいと思う。

熱で怠く重い指が縺れないか、ミスをしないかが心配だった。

伴奏代行でなく正式な伴奏者に抜擢されて以来、納得のいくまで弾きこんだつもりだ。

完璧に演奏する自信はある。

問題なのは体力と体調だ。

ベストコンディションで演奏できないのが残念でならない。

ほんの少しでも、気を緩めればガタガタに演奏が崩れてしまうのは必然だ。

ただがむしゃらに、自由曲を演奏し終えるまで持たせなければと、思うようにならない体を気力だけで鼓舞する。

手も足も体も自分の物ではないように思える。

それでも演奏せずにはいられなかった。

コーラス部員の3部合唱が心地よく耳に響く。

課題曲の歌詞に視界が滲む。

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