あ、あ、あ愛してる
「――Alice」

和音くんの姿に息を飲んだ。

車椅子の後ろには、もしも呼吸困難や喘息発作が起きた時のために酸素ボンベを備えている。

音楽科の制服を着た和音くんは、病室で見た時よりも顔色が悪かった。

昼食を終えた学生が少しずつ、会場に戻ってくる時間で和音くんを振り返っていく。

口々に「LIBERTEの綿貫和音じゃない!?」とか「大丈夫なの?」とか「もう歌えないって噂、本当なの?」と、話す声が聞こえた。

『出番に間に合ったな』

和音くんは聞こえないふりをしているのか、動じない様子で、あたしたちに手話で話しかけた。

膝の上には画用紙とヴァイオリンケースが乗っている。

和音くんは『入院していて練習してないから、エールになるかどうか』と、手話で前置きしてヴァイオリンを取り出した。

調弦を素早く済ませ、細く長い指でヴァイオリンを奏でる。


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