あ、あ、あ愛してる
1小節目を聴いてわかった。

「ROSE」だった。

優しく切ない旋律の美しい音色がロビーに響き渡る。

大ホールに戻りかけた学生が引き返し、ロビーに入ってきた学生や音楽ホールを訪れた一般の人たちが立ち止まって、和音くんの演奏を聴いている。

和音くんはこれが病室で弱音を吐いていた、あの頼りない和音くんだろうか? と思うほど、凛としている。

「練習してないから」と言ったけれど、すごく綺麗な音で、入院していることも体力が落ちていることも、全く感じさせない。

――花音がんばれ

和音くんの声や「ROSE」を歌う歌声まで聞こえてきそうだ。

和音くんの体が演奏が終わった途端、ぐらりと揺れて、ハッとし「Alice!!」と叫んだ。

崩れるように脱力する和音くんの体を奏汰が支えて、車椅子に座らせた。

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