あ、あ、あ愛してる
「リハビリは始まったばかりなのに、声が出ないと嘆いているなんて」俺を詰った花音の言葉が、胸に突き刺さっていたのに、最もだと納得できた。

花音に何も知らないくせにと、愚痴った自分が情けない。

どんな声でもいい、自分の声で歌いたいと心底思う。

俺は花音を見つめ、心の中で花音の名を呼び続けた。

花音が一生懸命に歌う歌声を聞き逃すまいと耳を澄ませた。

身を乗り出し耳を傾け、目を凝らす。

歌声に合わせ自然と口が動いた。

息をつくたび喘鳴が漏れ、胸に手を当てる。

拓斗が俺の顔を何度も覗きこみ、付き添った看護士が俺の背を擦った。

「ROSE」の終盤、フッとつかえていた喉の重苦しさが僅かに軽くなった気がした。

花音たちが「ROSE」を歌い終えた時、こみ上げてきた思いを抑え切れず懸命に手を叩き、出ない声を張り上げた。

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