あ、あ、あ愛してる
辺り気にせず、ただ歌った。

奏汰が俺の手にエレキギターを握らせた。

俺は看護士が止めるのも聞かず、車椅子から立ち上がった。

エレキギターを爪弾き、必死で「ROSE」を歌った。

ロビーに居合わせた客や県民ホールのスタッフ、聖奏コーラス部、自分たちの出番を待つ他校の学生たちから「頑張れ」という、声援が聞こえた。

歌声と呼べるものではなかった。

でも空気しか漏れなかった喉から、やっと出た声だった。

めちゃくちゃな声だった。

なのに、声援をもらえることが有り難くて胸が痛い。

――こんな声で、こんな歌で申し訳ない。でも、これが今の俺の声だ

頬に冷たいものが伝い、口にも入ってくる。

塩っぱい雫は頬を濡らし、口を濡らし、首筋に伝った。

俺はついさっきまでは空気しか漏れなかった喉から、やっと出た声で歌った。

――もう1度、歌いたい

感謝と祈りと決意を込めて歌った。
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