あ、あ、あ愛してる
俺はあんな未完成の演奏がと、不思議でならなかった。

メモ用紙に急いで「俺は必死で貴女のピアノに合わせただけです。貴女に合わせるのが精一杯で、完璧などと言える演奏はしていないし、満足できる演奏もしていません」と書き、エマに見せた。

「和音、あなたは自分がどれだけスゴいかを自覚していないの?」

エマは呆れたような表情をする。

俺はヴァイオリ二ストになろうと思ったことはないし、クラシックを仕事になどと思ったこともない。

メモ用紙に正直な気持ちを書く。

「もったいないわ。あれだけの実力も才能もあるのに。和音、あなたとならトリオで……いいえデュオでやっていきたいくらいよ」

エラく評価をされたものだと思う。

留学の話が今までなかったわけではない。

コンクールに出場するたび、留学の話はあった。

中学生までは吃音を理由に断っていた。
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