あ、あ、あ愛してる
玄人風を吹かしたエマの言葉に、喝を入れられた気がした。

――ずいぶんな余裕だな。俺、容赦しないよ

「言うわね。楽しませてもらうわ」

ドッと疲れ消耗した体力が一気に充電され、やる気が漲る。

負けてたまるか、2部開始ベルと共にカチリ、スイッチが入った。

ディニーク「ホラ・スタッカート」を演奏し、続けてバッジーニ「妖精の踊り」を演奏して、エマがネタばらしをする。

「トニーの代役条件は『初見で完璧に弾けるヴァイオリ二ストだった』のだけど、正直言うと期待はしていなかったわ。和音の演奏を聴くまではね」

エマは俺を観ながら、いたずらっぽく笑って話す。

「でも、どうかしら? ここまでの和音の演奏は」

観客に同意を求め呼びかけた。

観客は拍手で答える。

「トニーと演奏しても遜色ないヴァイオリ二ストだと思わない?」

エマの上機嫌な様子が声のトーンからも伝わってきた。

< 189 / 209 >

この作品をシェア

pagetop