あ、あ、あ愛してる
俺は超絶技巧のオンパレードで酷使し、痙攣寸前の指をほぐす。

「『音合わせは初見だった、手を抜いていたわけではない』って言ったのよ。その後、容赦しないからって。スゴく生意気だと思ったけれど、納得したわ。今日、ラストナンバーはエルンスト『庭の千草変奏曲』よ」

休憩時間の会話までバラさなくてもいいだろうと思いつつ、ヴァイオリンを構える。

この曲で今日の演奏の全てが決まる、俺の実力が評価されると思うと、指が震えた。

大きく深呼吸し緊張を鎮め、神経を集中させる。

ヴァイオリン奏法のあらゆる技術を詰め込んだ曲は、聞いている分には穏やかで切なく難しさを感じさせないのに、美しい素朴なアイルランド民謡をこんな難曲にしちゃってと思う。

指の先端まで神経を集中させなければ弾けない繊細さが要求され、演奏しながら何度も指が吊りそうになる。

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