あ、あ、あ愛してる
言えない気持ち
コンサートの翌日。

和音くんのヴァイオリン演奏のニュースは、朝からテレビやラジオや雑誌を賑わした。

デュオの姉エマと演奏する和音くんの颯爽とした姿は、言葉にできないくらいサマになっていた。

「世界が違う」

副部長は部活終了後、あたしの肩をポンと叩いてポツリと言った。

「有栖川、留学するかも。Soleilのマネジャーがジュリアードのプレカレッジのオーディションを受けてみないかと勧めたらしい」

あたしは不安な気持ちを抑えて「そうですか」と平静を装った。

校門前、和音くんは何事もないように手話で『花音、今から遊園地の観覧車に乗りに行こう』と誘った。

あたしの返事も聞かずに、あたしの手を引きバス停まで歩いた。

「Alice、留学勧められてるって本当?」

和音くんは聞こえていないのか、答えない。



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