あ、あ、あ愛してる
あたしは羨ましがる友人の話を「ふーん」と、聞き流した。

「LIBERTE」は、少なくともあたしには、どうでもいい存在だった――昨日までは。

和音くんに、ギュッと抱きしめられた時の温もりを思い出す。

歌声だけでなく、和音くんの喋る声を聞きたいと思った。

指文字でも手話でもなく、和音くんの話す声を聞いてみたいと思った。

親子連れがあたしの前を何組も通る。

駆け寄ってきたり、手を振ったりする子供に愛想を振りまきながら、あたしの目は和音くんを見ていた。

歌っている時は、まともに喋れないことを微塵も感じさせない。

ステージの上、和音くんは生き生きしている。


――「LIBERTE」の綿貫和音って、全く喋らないのよね。ボーカルだからって全く喋らないってどうなの?


いつだったか、友人がそんな話をしていた。


「綿貫和音は喋らないのではなく、喋れない」という真実。


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