あ、あ、あ愛してる
お願いを1つ
掌に指文字で書いた和音くんの言葉。

――有栖川和音が綿貫和音

信じられなかった。

和音くんは素早く書いたメモをあたしに手渡し、手を振って廊下を走り去った。

手渡されたメモ用紙をじっと見る。

和音くんのアドレスと「メールして、喋れないから」と書いた文字。

横滑りのとてもキレイな字だ。


「花音、何してるの。遅いから見て来いって、地理の先生苛ついてるよ」

友人の尾崎愛美があたしの姿を見つけ、血相を変え走り寄った。

地理の授業に使う教材プリントを視聴覚室まで運ぶ途中だった。

そもそも授業に使う物を「忘れたから取ってこい」と指示する抜けた教師が悪いと思う。


「授業前に指示を忘れたなんて鈍クサいわよね」

愛美は言いながら、筒状に束ねた教材プリントを半分持ってくれた。


「何持ってるの」

あたしが手に持っているメモ用紙を目敏く見つけて訊ねる。
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