あ、あ、あ愛してる
「実はね、眼鏡外して髪を上げたら意外と美形っていう噂があるの」

あたしは「へぇ~」と気のない相づちを打つ。

廊下を急ぎ足で歩きながら、愛美は楽しそうに話す。

「ヴァイオリンを弾いている姿はけっこうカッコイイんだけど」

今し方、有栖川和音本人から指文字で知らされた事実を昇華しきれずにいる。

制服のポケットに入れたメモ用紙のきれいな文字とアドレスが、気になってしかたない。


「ねえ、花音。遊園地の着ぐるみのバイトまだやってるの?」


「うん、時給いいし」


「炎天下に着ぐるみって、大丈夫なの? 無理しちゃダメだからね」

あたしは笑ってごまかす。

遊園地での「LIBERTE」ライブで倒れたことは話していない。

視聴覚室に着くと、地理の教師はあからさまに「遅かったな」という顔をし、あたしと愛美の手から筒状に束ねた教材プリントを受け取った。

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