あ、あ、あ愛してる
「静かに。綿貫和音がアカペラで歌うなんてレアなんだから」

最前列、仁科の一喝が響く。

普段は地味で冴えない黒縁眼鏡の、吃音が酷くまともに喋れない俺を「ダサAlice」と小馬鹿にしている連中が、俺の歌を聴いている。

信じられないという表情で。

箒1本抱えエアギターで歌う「ROSE」は数日前、コーラス部が歌った同じ曲だ。

俺の教室から、数室先のクラスにいるコーラス部部長が足音も荒々しく教室に入って来るなり、最前列に陣取った。

2時限目の始業ベルは鳴ったはずだ。

俺は歌いながら、廊下に目を移す。

学生の列に教師が数名、紛れ込んでいる。

教卓の上、さすがに上履きでは不味いよなと飛び乗る前、上履きを脱いだ俺。

こちらを睨みつけている教師の顔、当然お叱りを受けるものと覚悟した。
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