あ、あ、あ愛してる
和音くんはあたしと目が合うなり、緊張し強張った表情を解いて優しい笑顔を向け、ゆっくりと手を動かした。

たぶん『花音、行ってくる』という、手話だと思う。

あたしは和音くんが手話で話し、ハッとし筆談に切り替えるのが申し訳なくて、手話の本で少しずつ手話を覚えている。

LIBERTEブログの予告のせいか、今朝は正門前に報道陣はいなかった。

あたしは「頑張って」と、思いをこめて手を振った。


18時30分、アリーナ。

開演ベルが鳴る。

暗転の舞台にヴァイオリンの音が静かに奏でられる。

ホリゾント幕に星が1つ、また1つ映し出され増え続け、一筋の光がパッと舞台中央を照らすと、客席から歓声が上がった。

細身のヴァイオリン奏者は、横浜市内の名門大学附属高校聖奏学園音楽科の制服姿で、颯爽と曲を奏でる。

曲は「ROSE」だ。


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