あ、あ、あ愛してる
『マイクを向けられるたび、喋らなきゃならないことがあるたび辛くて恐くて……』

拓斗が和音くんの手話を丁寧に、言葉にしていく。


『冷や汗が出たり体が震え出したり、話そうと頑張るけれど過呼吸で呼吸困難になる。週1で10数年、言語聴覚士の診察も受け、リハビリもしているけれど、効果はゼロ……』

あちらこちらからガッカリした深いため息が聞こえた。


『治る見込みはないのかもしれない。でも治療方法として、歌を勧められた。俺は吃音がなかったら、歌ってなかった……吃音でなければ綿貫和音にはならなかった。今まで隠してて、ごめん。騙していてごめんなさい』

和音くんは深々と頭を下げ、顔を上げて再びマイクを握りしめた。


「すす、す、すすみませせんででしした」

和音くんの声も全身もガクガクと、音が鳴るほど震えている。

和音くんは両手でマイクを握りしめ、しがみついている。



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