あ、あ、あ愛してる
メロディーを歌うソプラノが正確でなければ、メゾもアルトも調子を崩す。

まともに喋れないことがもどかしかった。

メゾとアルトのパート練習も終え、3部の歌声を合わせる。

合唱と呼ぶにはお粗末すぎる歌声に、どっと疲労感が押し寄せる。


「ひ……ひ、ひどすすぎる」

眩暈がしてきそうだった。

気を取り直し最後まで伴奏をし立ち上がると、立て続けに咳が出た。

息苦しさと胸の痛みに、胸に手を当て深呼吸し数秒で治まったが、仁科は「無理をしないほうがいい」と言い、俺は練習途中で退室させられた。

花音の心配顔が目に映り、退室して直ぐ「大丈夫だから」とメールを送った。

報道陣がいるかもしれないことを考え、裏門へ回ると拓斗がバイクを停め、門柱にもたれ掛かっていた。


「たた拓斗」
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