金平糖の宝箱
02
最初に気付いたのは、付き合ってから半年ほどたった頃のことだった。春休み、まだほんの少し寒さが残る日に、女の子と手をつないで歩く彼を見た。
ガンッと頭を殴られたような衝撃に見舞われ、ただ目をまん丸くしてそちらを見るしかなかった。つないだ手をポケットに入れて、仲の良い恋人同士のように寄り添って。きっとあのポケットの中はあったかいだろうな、なんてことを思った。
わたしはその暖かさを知らなかったけれど。
それからは頻繁に、様々な女の子と手をつないで歩く彼を見た。彼が連れて歩く女の子はどの子も、私とは正反対の華やかでかわいらしい容姿をしていた。
そして本気で彼に恋をして、彼の表情や言葉、振る舞いに一喜一憂をして。彼と付き合うことができる可能性を、諦めることができなくて。最後には、「彼女」であるわたしのことを睨んでくるのだった。
遊びなら遊びらしく、本気にならない女の子を選べばいいのに。
ぽつり、と友人にそんあ愚痴を漏らすと、「本妻の余裕だね」なんて笑われた。
私も笑みを返した。
… … …
何度目のことだっただろうか。また女の子と一緒に歩いている彼を発見した。恋人がいるのにあそこまで堂々と違う女の子と歩けるなんて、むしろ男らしい、なんて思って呆れたように小さく笑みを浮かべた。
その瞬間、彼がちらり、とこちらを見た。
ばちり、と合わさった視線が音を立てた気がした。身体に電流が走ったような気分だった。彼は小さく口角を上げると、隣に居る女の子の耳元に唇を寄せた。
見せつけるような仕草だった。
桜の花びらが舞い落ちる中に佇む二人は、絵になるな、なんてことを思った。彼と彼女の後ろに見える桜の花が、毒々しいほど綺麗だった。そんなにかわいいこと一緒に居ながら、わたしと付き合い続ける彼は不思議な人だ。彼は何がしたいんだろう、とわたしは小首をかしげた。真っ白な肌につややかな黒い髪をもつ彼女は、彼に近づかれて耳を真っ赤にしていた。
純粋そうな子、そんな悪いやつに捕まるなよ、と小さくつぶやいた。
… … …
決定的になったのは、高校3年生の時。
忘れものを取りに入ろうとした教室に、彼がいた。わたしに告白した時と同じような夕暮れの中、抱きしめあっている二人のシルエットがとても綺麗で、まるで写真のようだと思ったのを覚えている。
彼は私を視線に捉えると、ゆっくりと抱きしめている少女に顔をよせ、深く、深くキスをした。一瞬だけ瞳をこちらに向けて、ふわり、と微笑んだ。
まるで悪戯が成功したかのような微笑みだった。
噂を聞いた。
彼は、来るものを拒まない。
付き合うことこそお断りをするけれど、キスをすることも、手をつなぐことも、腕を組むことも、抱きしめることでさえ、誰とでもできるような人なのだと。
その通りだと思う。誰よりも近いはずの、「恋人」という位置で私は見てきた。
風の便りよりも確かな事実として、わたしはそのことを知っている。
けれど、わたしは、彼の手の温度を知らない。唇を合わせたこともない。
わたしは、一体彼のなんなんだろう。
不思議そうに、小さく首を傾げてみた。