真夜中のアリス
目を閉じて思い出されるのは遠い昔のような、近いような曖昧な日々。
胸をほんわかと陽だまりのような暖かさで包んでくれるような優しい思い出たち。
そして隣には何時でも貴方はいるの。
穏やかな眼差しとふわりと風にのってゆらめく綺麗な黒い髪。
優しい手つきで髪を撫でてくれる大きな掌。
そして、はにかんだ時の照れたような笑顔。
名前を呼ぶと「なあに?どうしたの」とわたしを見て優しくうなづいてくれるテノールのような暖かみのある声色。
貴方を形成するもの総て。全部全部、大好きでした。
唸るような携帯のアラームのバイブ音とサァサアと窓に降りかかる雑音がやけに不愉快で、閉じていた目を嫌々ながら開ける。そして落胆する。ああ、今日も目が覚めてしまったのかと。
カーテンから覗くと更に強いものになっていた季節ハズレの雨は、どうも今日も降り止みそうにはなさそうだ。