真夜中のアリス
思い出したといえば、あの涙の池での出来事だってそうだ。確かにあの小さな女の子はあたしで、ずっと昔に夕暮れの公園で必死に探した大切なものがあった。でも見つからなくて、悲しくて辛くて。現実を忘れようとしたんだ。
「確か…あの絵本も捨てたんだっけ…」
5歳の誕生日にママから貰った大切な絵本。
長い金糸と水色のエプロンワンピース姿の女の子がうさぎを追いかける、大好きだったお話。いつも寝る前に、読んで読んで!とせがんで「ほんとに飽きないわね」って笑いながら読み聞かせてくれた大切な宝物。
いつもあの子と一緒に聞いていたんだった。
けれど、大切だったのに、大好きだったのにいまもあの子を思い出せない。
どうして、あたしは何もかも忘れようとした?どうしてあたしは忘れたくせに思い出したいと願うの?
自問自答、けれど答えが出ない。