真夜中のアリス

ふわりと馨る麗らかなる薔薇の薫り。
それを背にして、意を決して言葉を紡ぎ出し始めた。噛みしめるように、溢れ出すように。

「初めて会ったのはね、大学の入学式だった」

地元を離れ知り合いなんて誰もいない、不安しかない学校生活。
あたしはこれでもかってくらい心臓をドキドキさせて会場に向かい、指定されていた席に座る。周りは早速和かに会話を楽しみ、笑い声で溢れていた。その様子にも心は焦り、どうしようとしか言葉は出てこず、それは脳内を循環していた。
そして始まった入学式。そこでも学長の話だとか、諸先輩方の祝辞だとかなんて全然頭になんて入ってこないで、ずっと下を向いていた。
そんな時だった。

「顔をあげて」
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