真夜中のアリス

「なんでこんな日にって、すっごい後悔と苛立ちを覚えて帽子を追いかけて落ちた場所に拾いに行ったの。そこには」

見つめ続け想い続けた彼が目の前にいた。
見たことのないくしゃくしゃな笑顔を浮かべて、ニット帽を持ってあたしの前まで来て立ち止まる。
顔は紅潮身体は硬直。心臓の音だけが激しく波打って息が出来なくなるんじゃないかってくらいに時が止まってしまっていたのだ。

更に吹き続ける風は彼にも容赦なく襲いかかって、何時もなら綺麗に纏まっている少し長めの黒髪があたしと同じ様に乱れている。
似つかない全く間逆の世界に住むあたしにとって、唯一それが同じなんだと思えたら何だか嬉しくなっていつの間にか笑っていた。
そうしたら、彼も更に笑顔になっていて、声をかけてくれた。

「ずっとずっと、話したかったんだ。一緒にいたいんだ。」
< 275 / 349 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop