真夜中のアリス

だから、だからこそあーちゃんはあたしに背を向けて振り返らずにいってしまったのかもしれない。”脱走してしまった”という事実だけなら、いつかまたどこかで見つけれる、また会えるという希望をあたしに残してくれるために。

「約束、守ってくれてありがとう。あの絵本、ずっと覚えていてくれたんだよね。
あーちゃんはずっと苦しくて辛かったよね、それなのにあたしは…」

けれどもそれでさえも、悲しくて辛くてどうしようもなかった幼いあたしは考えた。
”ずっと覚えてるから辛いんだ、全部忘れてなかったことにすれば辛くもないし悲しくもない”と。

だから最初は忘れた振りをした、大切だった絵本も大好きだったあーちゃんのことも。
ママは吃驚していたけれど、何も言わず見守ってくれていた。そして思惑通りにあたしは忘れて思い出せなくなっていた。
< 332 / 349 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop